私とセルビア
セルビアと日本をつなぐ愛のギター
ギター職人との出会い
「私のギターはすべてが手作り。買い手は日本のミュージシャンやギター収集家だ」
セルビアのギターが日本に?
「デザインにこだわっているからね。そこに日本人は惚れたんだろう」
誇らしげに話す中年男性の名前はゾラン・パンティッチ。セルビア中部の小さな町、スメデレ ヴスカ・パランカに住むギター職人だった。
翌日、ネナド・グリシッチ大使にゾランの衝撃を報告した。大使は大の音楽好きだ。ギタリストであり、ギター収集家でもある。日本のギターに対する造詣も深い。好きなアーティストはボブ・ディラン、ピンク・フロイド、イーグルス、ドゥービー・ブラザーズ。王道のクラシックロックだ。
大使はゾランのギターについて「セルビアには有名なギター職人が何人かいるが、彼のことは知らなかった。しかも日本にファンがいるなんて」と興奮気味に話した。続けて「ゾランはどういう経緯で日本とつながりを持ったのだろう」と言った。そういえばニュース映像ではその答えは明らかにされていなかった。早速、ゾランに関する情報収集が始まった。

皆に愛されているゾランのギター

スメデレヴスカ・パランカの街並み
ゾランを発見!
パソコンの画面に表示された特設ページの中央には、自ら手掛けたギターを我が子の見つめるゾランの写真が掲載されていた。その下には温かみのあるフォントで商品の説明が書かれていた。
「はじめてこのギターをみたとき、今まで見たこともないスタイルなのに、優しい感じがした。そして、まず自分でいつものポジションで構えてみてその姿を見たい、と思った。このシェイプ、構造、色合い全てが独創的でありながら、必然性も感じられるこの感じはどこから生み出されるのか?その物語、彼の背景、・・・セルビアという国の歴史を含めた、その秘密を知りたくなった」

セルビアのギター職人、ゾラン・パンティッチ
ギターとその職人を大切に育てていきたい
「当社は1980年代より世界各地よりユニークでストーリーのあるギターの輸入をし、日本に紹介をしてきております。セルビアの Pantic Zoranのことは約5年前にヨーロッパのギターショウの記事で見つけ、私からコンタクトを取りました。今までのアメリカ、日本などのデザインとは明らかに違いとてもユニークなギターで興味を持ちました。話を聞いてみると、そのユニークなギターシェイプのデザイン自体がセルビアの伝統に基づくものだそうで、そこを尊重して取り扱いをしております。 Zoranはほぼ独学で趣味的に制作していることから、少しラフな面もありますが、他方とても個性があり、そこを買っています。なかなか多く売れるものではないですが、大事に育てていくつもりで取り扱いしていくつもりです」(※原文ママ)

「あぽろん」の店内で
大好きなギターに囲まれる本間さん
セルビアから日本へ受け継がれる愛情
なぜ本間さんはゾランのギターのようなマイナーな製品に目を付けたのだろうか。その答えは、本間さんが地元のWebメディア「な!ナガオカ」から受けたインタビューの中に明記されている。
「海外の見本市へ行くと、『このミュージシャンが使っていて、こんなに素晴らしいビルダー(楽器を作る人)が作っているのに、なんで日本ではどこも取り扱ってないんだろう?』みたいな楽器がいっぱいあるんです。大手はたくさん売れるモデルを買い付けないといけないから、生産数の少ない小さな工房には目もくれないですが、私はいちファンとして惹かれる、“ストーリー”がある楽器を選んで取り扱ってきました」
ゾランのギターはすべて手作りだ。1年で作られる数に限りがある。だがその分、彼の愛情、情熱がギターの隅々まで詰まっていて、ストーリーが存在するのだ。それがゾランのギターの最大の魅力である。そして、本間さんが持つ店舗にはゾランのような素敵な物語に満ち溢れたギターが世界各国から集まってくる。本間さんは話す。
「わざわざうちで買ってくるお客さんは皆、楽器の背景にあるストーリーにちゃんとリスペクトがある人が多いです」
日本のミュージシャンやギター収集家は、ゾランの物語に触れ、敬意を払い、ギターを購入するのだ。それはプロのミュージシャンも例外ではなく、本間さんによると、日本の著名アーティスト、宇崎竜童さんもゾランのギターを愛用しているという。
セルビアの田舎町から海を越えてやってきたギター。作り手、売り手、買い手。手にする人間や場所が変わっても、愛情はしっかりと受け継がれていく。
関連リンク
▼ゾラン・パンティッチさんのギターの特設ページ(あぽろん)
https://ssl.apollonmusic.com/pantic/
▼大物ミュージシャン御用達!長岡の楽器店「あぽろん」に県外からも客が訪れる理由
(な!ナガオカ)
http://na-nagaoka.jp/nagaoka/2857
▼「ちょっと面白い楽器店あぽろん」のTwitter
https://twitter.com/apollonmusic